rinrin01


「うう……どうしよ、どうしよー!!」


新しいナカマが出来て、しばらくたった、とある日。
ものすごい問題に、あたしは直面していた。

しかも、あたし自身のことで。


「なんで、なんで歌えなくなっちゃったのー!?」


今まで歌えていた歌が、ゼンゼン歌えない。

歌おうとすると、なぜかそこで止まっちゃって。
言葉がどうしても続かない、前に進まない。


「これ……スランプってやつ?」


前に、ママが言ってた。
アイドルたるもの、「スランプになってからがプロ」 だって。


「あたしも、ちゃんとしたアイドルになった…ってことなのかな?」


そんなことを思って、なんだか自分で笑ってしまう。
そうじゃないってことは、あたしはわかってるんだ。

多分、ママが言うスランプっていうのは、
プレッシャーとか、緊張とか、そういうのから来るものだと思っている。


「ろーらいず!!!」というグループのリーダーになって、
責任とか、ちゃんとやらなきゃ……っていう気持ちはある。

ののやこげをひっぱって、一緒にがんばんなきゃ…とか、
北條さんが事務所に入ってきて、
彼女のようなすごいアイドルになりたい、負けたくない…
っていうプレッシャーはあるけれど…。

そういう「スランプ」とは、なんか違うんだ。


「なんでだろ…わかんない…」


うんうん頭をかかえても、答えなんか出ない。
こういうときは、とにかく歌ってみて、原因をかんがえてみなきゃ…。

ステージの上でも歌えなかったりしたら……サイアクじゃんっ!


「んっ、んっ……あー、あー、あー……」


レッスン室のマイクの前にたって準備をする。
CDデッキのリモコンを押すと、聞き慣れた音楽が流れ始めた。


「怒られたことだけ~気にはしてみたけど~♪」
 

この辺は、気持ちよく歌えてるのが自分でもわかる。
お腹からしっかり声もでてるし、調子も悪くない…と思う。

でも。


「笑顔でグリグリして~♪」

「ス、スキだと……いってほしいの……」

「………」


「あああああああぁぁぁ、だめだーーーっ!」


やっぱり、さっきと同じところでつまっちゃう。





スキ。





この2文字を言うときに、どうしても、どうしても言葉が出ないんだ。
なんか、顔がぽわぁーっとして、耳まであつーくなるっていうか…。

熱でもあるのかと思って体温計ではかってみたけど、問題なかったし……。


「前までは、フツーに歌えてたのにな…」


元々、ママが昔歌ってた曲だったから、何度も聞いて何度も練習した歌なのに。
たくさん、歌ってきたのに。

これを、お客さんの目の前で歌うんだ、と思うと……。
えっと……なんていうか……


「はずかしい……?」


そうだ。
この気持ち、何かに似てると思ったら。
歌を間違えてシッパイしちゃったときとかに、カーってなる、アレだ。

でも、似てるけど、そういうマイナスな感じじゃなくって……。


「スキ…っていうのが、はずかしい……って、どういうことだろ…?」


あたしは、スキって言葉に、ダメなイメージは持ってない。
どっちかっていうと、うれしい、って方向の言葉のはずだ。

それがはずかしい…っていうのは、何か原因があるはず…!
身近なものを思い浮かべて、スキって言ってみたら、なんかわかるかな?


「アイス、すき」 ……食べたいなあ。

「ママ、すき」 ……うん言える。

「のの、すき」 ……言えるなあ。

「こげ、すき」 ……なんかパリパリしたところが好きみたいになっちゃった。


となると、残りは……。


「お…」
「……」

「……えええええー!? な、なんで、なんでぇっ!?」


言おうとしたことを頭に思い浮かべるだけで、
顔がものすごくアツくなっていくのを感じる。
心臓がドキドキして、止まりそうになる。


「お兄、すき」


これが、言えなかった。
原因はこれだったんだ。


「……でもどうして? なんか、違ってることってある…?」


…原因はわかっても、やっぱり理由はわからない。
この「スキ」は、ママや、ののにこげ、アイスやポテチに対する「スキ」と一緒じゃないの…?

なんで「お兄」のときだけ、こんなにぽわーってしちゃうの……?
口うるさいし、ポテチ食べちゃダメって言うし、ちょっと汗くさいときあるし…。
そ、そりゃあ、やさしいときもあるけどさ。

そもそも、歌にお兄、ゼンゼン関係ないじゃん!
そう思って、もう一度歌詞を読み返す。

ほら、やっぱり、お兄って言葉は出てこない。
女の子が、誰かに伝えたい、っていう歌なのはなんとなくわかるけど、
細かい部分は、意味が難しくて…。

ここで、あたしは一つ気がついた。


「あれ? そういえば」
「こんなに、この歌の内容について、考えたことあったかな…?」



ママの曲だから、歌いやすいから、メロディがいいから。
あたしがこの曲を歌いたい、って思ったのは、それが理由だった。

もちろん、いっしょーけんめーに歌ってたけど、
内容までは細かく考えてなくて、

<どういうキモチで歌えばいいのか>

ってことは、わかんないままだったんだ。


歌ってるうちに、前より内容をイシキしちゃってるってこと…なのかな?
そして、歌に出てくる子が、あたしにだんだん重なって…
背伸びしたあたしをみてほしい、色々おしえてほしい、スキだと言ってほしい。
それを…伝えたくて……




誰かに? ううん…




お兄に…





「うわあぁぁ……」


また、自分の顔がアツくなるのがわかる。
あわてて水でぬらしたタオルで覆っても、ゼンゼン冷めそうもなかった。


……

結局、あたしがわかったのは、お兄に対する「スキ」が違うってことだけで。
その違いがどういうものか、っていう答えは出なかった。

この時は、しばらくこのスランプが続きそうな予感がしたんだけど。
あたしが思うより早く……脱出する機会がやってきて。


それは…お兄が原因で、お兄がきっかけで。
あたしが伝えたいと思ったから、この歌のように、あたし自身が決めて、行動して…


だから、あたしはお兄に、言わなきゃいけない。
変化した「スキ」の意味を教えてくれたことと、お兄の方からも「スキ」をくれた、感謝をこめて。



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「ありがと、お兄。
 そのおっきい手で、『大好きだ』っていっぱいしてね?」 

 


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元ネタ : SLGだって欲しいもん!
イラスト : 紫刀


ろーらいず!!!