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バシュッ!

やった、入ったっ! 



「よっし、まずは1点目ぇー♪」



あたしが思いっきり蹴ったボールが、見事にゴールネットを揺らす。

新しい学年に上がってすぐの、放課後。

ぽかぽか陽気とはいえ、まだ少し肌寒いけど、あたしにそんなのかんけーない。



「わーっ、光野さんって、やっぱりサッカー上手だねえ」

「えっへへっ! いつも男子ともやってるからねっ!」

「スゴイなー。私、光野さんが味方でよかったよー」

「あははっ。去年までは別のクラスで敵同士だったもんね、斎藤さん」

「でも今年からは同じだし、一緒にたたかえるねっ」

「うんっ! 今年一年、よろしくねっ」

「あ、それと……、あたしは『えり』でいいから。ね、あかりちゃんっ!」

「っ! う、うんっ。ありがと、えりちゃんっ!」



新しいクラスメイトとも、下の名前やあだ名で呼び合う。

あたしの中で、これがはやく友達になるヒケツだった。



でも……例外的に。

同じクラスになったことがないとはいえ……

どうしてもそれで呼び合うことができない、とある長い付き合いの女の子がいる。



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「ぐぬぬぬぬーっ……! おのれ、光野繪里っ!」



今入ったゴールの近くで、心底悔しそうな顔をしている女の子。

サッカーだけじゃなくて、バスケ、バレー、50m走。

運動以外にも、身体測定や算数のテストとかも、ぜんぶ。

彼女といると、なんでも勝負事になってしまい、意地の張り合いになるんだ。



「ふふーんっ。あんたより、あたしのほうがユーシューだったってことよっ」

「ま、まだ1点だもんっ。それに、チーム内のレンケーは、こっちのほうが取れてたしっ」

「次は間違いなく、あたしのクラスが入れてやるんだからっ、カクゴしてっ!」

「ふんっ。いいわ、かかってきなさいっ!」

 
 

お互いに、ニヤリと笑みを浮かべながら、グラウンドの中央へと戻る。



「さあ、みんないくよっ!」

 

声に合わせてボールが蹴られ、彼女の掛け声でチームが一斉に動いていく。

……正直、ムカつくやつなんだけど。

仲間を率いる、彼女のリーダーシップ力はあたしも認めてるところがある。

競っていると、あたしもいつも以上のチカラが出る…気がする。

これが、ライバルってヤツ……なのかなぁ。

ま、まあ、あたしのほうが、運動も勉強も上だけどねっ!

 

「こっちこっちー! ……よっ、ナイスパスッ、みっちゃん!」



…っ! まずいっ!

彼女の掛け声で、いいパスが通って……ゴールまでのコースががら空きっ!



「いっけええーーーーっ!」

「うたせるかああーーっ!」

 

一番近くにいたあたしが止めなきゃ……入っちゃうっ!

多少強引にでも……うりゃああーっ!



「きゃあぁっ!?」

「あっ……!」

 

ずさっ

ボールを取ろうと出したあたしの足と、アイツの足がもつれて。

シュートを止めることはできたけど、彼女が地面に倒れ込んでしまった。

ま、まずい……やっちゃった……!?
 

「だ、だいじょうぶっ!?」


彼女のチームメイトが集まってくる。



「あっ……あ、その……っ」

 

普通ならすぐに出る心配の声が、なぜかあたしの喉からうまく出ない。

いつもの関係のせいか、理由はわからないけど…。



「う、うんっ。ヘーキヘーキ、これくらい…」

 

彼女が座り込んだまま、足首をくるくると回す。どうやら挫いたりはしてないようだ。

倒れた時にすりむいたのか、膝から少し血がにじんでいる程度。

ホッ……よかった。無事みたい。

……そう思った矢先。



「あっ、ひ、ヒザすりむいてるっ。ど、どうしよう……っ!」

 

なぜか当の本人が、とても慌てている。



「えっ……その、倒しちゃったのは悪かったけど、そんなのナメておけば…」

「そ、そうだけどっ……。う、ううっ……」

 

いつもは、こんなケガでアワアワすることなんかないのに。

もしかして、何か、ケガしちゃいけない理由でもあったんだろうか。

例えば、ママに怒られるとか。 

だとしたら……。



「あーっ、もうっ!」



ヒザを見て落ち込んでいた彼女を起こして、肩を組んで抱える。



「えっ…? 光野繪里…?」

「いいからっ、保健室行くよっ! あ、あかりちゃんたちは続けててっ!」

「………」

 

たぶん、まだ先生もいるだろうけど、急がなきゃ。

そんなことを考えながら、罪悪感からか、恥ずかしさからか。

あたし自身も少し慌てるように、彼女を連れて保健室へと向かう。

なぜか彼女も何も言い返さず、おとなしいままあたしに従った。









………










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「はあっ!? アイドルぅ~!? も、銛山稟が…!?」

「うんっ」

 

保険の先生に手当してもらって、先生が職員室に行って、二人きりになったとき。

ケガをした当人……銛山稟から、想像もつかない告白をされた。



「アイドルって、その、テレビとかに出ちゃったりするアレ?」

「あはは……さすがに、最初からそれはムリだなー。出たいけど」

「でも、最初のお披露目回って言うのかな。ミニライブが、今度あって」

「へえーっ。それ、いつよ」

「その……、今度の土曜日」

「……あっ」

 

ここまで聞いて、やっと理解できた。

つまり彼女は、アイドルのデビューってやつを控えてる。しかも、2日後に。

ミニライブに出るってことは、人前で歌うってことで……。

そっか、それで……。



「あのね……あんた、バカじゃないのっ」

「は? な、何よ急に」

「だってさ。こうやって遊んでて、ケガしちゃったら、
                 ライブ、失敗したかもしれないじゃんっ」

「大きいケガじゃなくてよかったけど、現に、ヒザ赤くなっちゃったし」

「あはは。かわいい衣装にバンソーコーとか、ちょっとカッコ悪いかもねー」

「そうだよっ! それに、そういう大事なこと、なんでもっと早く言わないのっ?」

「……それは……」



彼女のデビュー前に、傷をおわせてしまった。

あせっているのか、その事実が、あたしの言葉を強くしてしまう。加害者なのに。

でも、サッカーの前に言っておいてくれたら、あたしだって少しは考えたのに…っ!

あたしがムスッとしていると、ぽつりと銛山稟がつぶやいた。



「あの……あたし多分、今度からあんまり、放課後は、遊べなくなると思うんだ」

「アイドルがんばって、たくさんお客さんふやすために、
                  オシゴトもトレーニングもしなきゃだし」

「だから、その……、今日は全力でサッカーしたかったっていうか!」

「……あんたと、遊ぶ機会もへるってゆーか……」

「…っ!」

「それに、最初に言っちゃったら、多分あんた、ホンキださなかったでしょ?」

「……」



正直、こんなことを言われるなんて思わなかった。

銛山稟は、あたしと遊ぶのが楽しみで、それが減るのが残念で……。

でも、それはあたしの方も同じ。

顔をあわせたらケンカばっかな仲だけど、

お互い一緒に、ホンキで競い合うのが、楽しくてしょうがなくて…。



「……ちょっと、ここで待ってて」

「えっ、光野繪里…?」



とまどう彼女を残し保健室を出て、あたしは自分のカバンがある教室に走っていく。



……

 

「ぜえ……ぜえ……ふぅ……」

「ねえ、あんたにこれあげる」



全速力で、保健室に戻ってきて。

すっと、カバンの中に入っていたひらひらを、彼女に差し出す。



「なにこれ……ハンカチじゃないよね。リボン?」

「そうっ。あたしが予備で、いつも持ち歩いてるヤツ。
         カワイイけどおっきいから使ってなかったんだけど」

「そ、その……今日ケガさせちゃったし、そのオワビっ!」

「え、そんなの、べつにいいのに……」

「あたしがよくないのっ! 
       それにあんた、あたまのベルの髪留め以外、あんま持ってないじゃん」

「も、もしアイドルするんだったら、そういうヤツを持っててもいいんじゃないのっ?」

「…っ!」



自分の顔が、ぽわーっとなっていくのがわかる。

こんな会話をするような相手じゃないから、恥ずかしくて、顔があわせらんない。

リボンを持った手が汗ばんで、布に、し、しみこんじゃう気がする…。



「な、なによっ!? いらないのっ?」

「……あの、言いにくいんだけど、
       衣装に合わせてあるリボン、ママが用意したのがもうあって…」

「ほげぇっ!?」

「くすっ……。でも、もらう。あんがと、光野繪里」

「……うん、たぶん、このリボンのほうが、あたしの着るヤツに似合うと思う」

「今度のデビューライブに、つかってもいい?」

「っ!! も、もうアンタのもんなんだから、好きにしたらいいじゃないっ」

「んじゃ、好きにさせてもらいますよーっと」

「……」

「……」




「くすっ…ぷぷっ……」 

「ぷっ……あははははっ!!」


 

なんだか、このヘンな空間がおかしくて。

こらえきれず、二人で笑い合う。

なんだか、普段あまり話さないあたし達だけど、やっぱ、つながってるんだな、って思ったり。



「ま、せーぜーがんばんなさいっ。その間、サッカー、もっとうまくなっちゃうから」

「あたしだって、トレーニングで体力つくから、
             昼休みのときはケチョンケチョンにしてあげるっ!」

「ふーんだっ、アヘづらかくなよっ!」

「それを言うなら、ホエづらよっ!」









………

 


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2日後の、土曜日。

銛山稟に「あんたもライブ見に来れば?」と言われて、だんこ拒否ったんだけど。

気になって……買い物ついでに(あくまで、ついでに)

こうしてコソコソと、イコーヨーカドーの屋上に来ているあたしがいる。

彼女以外のアイドルも出てるらしくて、そこそこ人が集まっていた。

万が一、銛山稟にみつからないように、出店の影に隠れるあたし。

すると。



『みっなさーん、こんにちはー! はじめましてーっ!』



元気な声が、マイクを伝わって屋上全体に響き渡る。

視線を向けた舞台の上には、見知った女の子が立っていて……。



「あ。あの子が、こないだお前が言ってた、デビューする子?」

「う、うん。そう」



一緒に買い物に来ていた兄キが話しかけてくる。

落ち着いてる兄キに対し、自分のことのように気が気でないあたし。

彼女が一人で立っている舞台を見て、ヘンな汗をかいてしまっていた。



「へー、結構可愛いな。元気だし、ハキハキしゃべって聞こえやすいし」

「ほら、他の人もみんな彼女を見てる。さっきまで他のアイドルを応援してた人も注目してるな」

「ふ、ふーん、そうなんだ? ま、まあ、あたしのライバルだし、それくらいトーゼンよっ」

「? 繪里、なんでお前が赤くなってんの?」

「う、うっさいっ! バカ兄キ!」

 

もしかしたらアイツ、誰にも見てもらえないかも…?

あたしのそんな心配とは裏腹に、兄キのいうとおり、たくさんの観客が集まってきていた。

その一人ひとりに、丁寧に元気よく声をかけていく、舞台上の彼女の姿は、とても輝いていて。

……がんばってっ。って、気づいたら応援しているあたしがいた。

ま、まあ……アイツが舞台の上にいる時だけだけどねっ! 仕方なくっ!



「そういえば、彼女なんて名前だっけ。モリヤマ リン……だったか?」



兄キも興味を持ったのか、彼女の名前を聞いてくる。

もちろん、あたしはその答えを知っている。

だけど、今の場面では、それは正解じゃない。



「……ううん。違うよ。アイツの名前は……」



見覚えのあるリボンと、ヒザに、衣装に似合わないワンポイントがある、デビューアイドル。

こないだの帰り際に誰よりも早く聞いた、あたしの友達の、新しい名前は……。




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『あたしの名前は、盛山りんねっ!
     みんな、早くおぼえて帰ってねーっ!!』



LOあんぐる!! ろーらいず!!!